東京都では「保護の受給要件を満たしている被保護者に対して実施機関の側から辞退を勧めることは、法で保障された保護受給権の侵害につながり、許されない」との運用指針を示しています(「東京都生活保護運用事例集」問8−46)。
(問8-46) 辞退届の取扱い
被保護者から、「就職が決まったので、生活保護を辞退したい」との申し出があり、辞退届が提出された。こうした場合、直ちに保護を廃止すべきか。
保護の廃止とは、基本的に、要否判定の結果否となる収入が継続する場合や、法第27条による指導指示に従わず、弁明の機会を付与しても合理的な弁明がなされなかった場合等、被保護者が保護の受給要件を満たさなくなったときに職権をもって行うものである。
設問の例のように、就労先が決まり、仮にその給与収入によって保護が否となる場合であっても、実際に給与が入金されるまでは要保護状態が継続するものであるし、給与収入の増によっても当該世帯の最低生活費に達しない場合には、引き続き保護の受給要件を満たしていることになる。
また、被保護者の中には生活保護制度について十分な知識をもっていない者も少なくない。したがって、保護の受給要件を満たしている被保護者から保護辞退の申し出があったからといって、それをもって直ちに保護を廃止することはできない。
辞退届の提出を受けた実施機関は、被保護者に直接面接するなどして、少なくとも以下の点について調査検討しなければならない。
・被保護者が保護の受給要件や廃止事由等を正しく理解しているか
・保護受給が継続できることを認識した上で任意かつ真摯に辞退を申し出ているか
・保護廃止によって被保護者が急迫した状況に陥るおそれがないか
なお、保護の受給要件を満たしている被保護者に対して実施機関の側から辞退を勧めることは、法で保障された保護受給権の侵害につながり、許されない。
京都市では、一昨年、退院即廃止死亡事件(山科国賠訴訟)での敗訴を受けて、保護廃止時の手順等について次の通知を発しています。特に、辞退による廃止については、次のように、辞退意思の任意性の担保のため、最低生活に満たない場合は保護継続可能であることを教示した上で辞退の意思を確認するように通知しています。
●京都市通知全文
各福祉事務所長 様
平成17年5月19日
保 健 福 祉 局 長
(担当:生活福祉部地域福祉課)
生活保護廃止時における適正な事務手続について(通知)
生活保護制度については,創設以来半世紀が経過する中で,国民の生活実態に合わせてさまざまな見直しが国において進められている。
本市においては,各福祉事務所が,「必要な人に必要な保護」を基本に.生活保護の適正な実施に努めているところであるが,市民の制度への信頼を揺るぎないものとするため,さらに適正な制度運営が求められている。
ついては,保護廃止時における手続上の留意点等を下記のとおり改めて取りまとめたので,適正な事務手続の確保に向けて,関係職員に周知されたい。
記
1 保護を廃止する場合の留意点について
(1)要件の確認
保護を廃止する場合は,被保護者が,次のいずれか.の要件を満たしていることを確認すること。
ア 生活保護法(以下「法」という。)第26条に該当する保護を必要としなくなったとき(要保護性が消滅している場合)。
イ 法第28条4項に該当する立入調査又は検診命令忌避があったとき。
ウ 法第62条3項に該当する指示義務違反があったとき。
エ 死亡したとき。
オ 転出したとき。
カ 保護を辞退したとき(下記2の(1)参照)。
(2)要否判定の実施
上記アにより,廃止する場合は,最低生活費が収入充当頓を上回り最低生活維持可能という 保護の要否判定が必要なことに留意すること。
(3)被保護者への説明及び書面による通知
保護を廃止する場合は,被保護者に対して,廃止の理由及び法的根拠について十分に説明するとともに,保護の廃止を決定した場合には.連やかに被保護者に対して,決定理由を正しく付記した保護決定通知書をもって通知すること。
なお.通知する方法は,
ア 郵送
イ 被保護者本人への直接手渡し
ウ 被保護者の自宅の郵便箱への投函
のいずれでも差し支えない。
通知したことを組織的に確認する方法として健康保険への加入などの他法他施策の活用を指導するとともに,廃止決定後,再度,その指導の結果と保護決定通知書の通知方法を保護台帳に記録して,決裁回付するなどの工夫をすること。
2 辞退による保護廃止について
(1)基本的考え方
法第7条が,保護は要保護者等の申請に基づいて開始するものとして,申請保護の原則をとっており,また,被保護者に対しては種々の義務が課せられること(法61条,法62条等)からすれば,要保護状態にあったとしても,以下の二つ要件を満たす場合には,辞退により保護を廃止することは認められるものである。
ア 被保護者からの任意かつ真しな辞退の申出があること
イ 被保護者が急迫した状況にないこと
(2)手続上の留意点
ア 保護制度についての教示
被保護世帯から辞退の申出があった場合には,収入が最低生活費に満たないのであれば,保護を継続して受給することができること及び保護を一旦辞退しても,生計維持ができなくなれば,いつでも保護の申請をすることができることを教示すること。
イ 辞退理由,保護廃止後の生計維持方法の聴取及び急迫状態の確認
上記アによる教示を行ったうえで,被保護世帯から.なぜ,自ら保護を辞退するのかその理由や辞退後の具体的な生計維持の方法を聴取するとともに,傷病を理由として保護を受給している者から保護の辞退の申出があった場合は,必要に応じて,主治医に,稼働能力の有無や療養の必要性の有無等について病状把握を行い,保護辞退後に被保護者がたちまち急迫状態に陥らないことの確認を行うこと。
ウ 辞退届の徴取
上記ア及びイにより,被保護世帯からの辞退の申出が保護廃止の要件を満たしていると認められる場合には,自筆による辞退届(書式は任意)の提出を依頼すること。なお,辞退届には,以下の項目を記載してもらうよう依頼すること。
(ア)辞退する期日
(イ)届出年月日
(ウ)住所,世帯主名(押印)
(エ)宛名としての福祉事務所長名
(オ)辞退理由
工 保護廃止の決定
辞退により保護廃止をする場合には,披保護者から聴取した辞退理由.保護辞退後の具体的な生計維持方法や主治医から聴取した病状等急迫状態に陥らないと判断した根拠,保護制度についての教示内容など,保護辞退に至る経過や確認した事項を保護記録に記載すること。
また,廃止理由は,保護記録,保護決定書及び決定通知書のいずれも「保護辞退による」とし,本人の保護辞退の申出により保護を廃止する旨を正確に記載すること。
オ 書面による通知
1の(3)に基づき廃止決定通知書が相手方に必ず届くように努めること。
3 保護制度についての懇切丁寧な説明
保護を廃止する場合に限らず被保護者に対してに、適宜「生活保護のしおり」の活用等により、生活保護制度や権利義務関係について懇切丁寧に説明を行うよう努めるとともに,説明した際には,その内容を保護記録に記載すること。