生活保護問題対策全国会議

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2007年7月15日の
現地実態調査の終了後に、
 
緊急声明  「北九州市は事実を検証し責任の所在を明らかにせよ‐辞退届により保護を打ち切られた男性の孤独死事件を受けて‐」
 
を発表しました。
 
 
   

 
北九州市は事実を検証し責任の所在を明らかにせよ
‐辞退届により保護を打ち切られた男性の孤独死事件を受けて‐

 


2007年7月15日

生活保護問題対策全国会議(代表幹事 尾藤廣喜)
事務局 〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
                    

 

1 去る7月10日、北九州市小倉北区において今年4月で生活保護を打ち切られた52歳の男性が自宅で孤独死していたことが判明しました。

 昨年同市門司区においては2度にわたって保護を求めたにも関わらず福祉事務所の窓口から追い返された男性が餓死に追いやられるという事件が発生するなど、同市の生活保護行政のもとで死者が発生する事態が相次いでおりますが、またもこのような痛ましい事件が起きたことは残念でなりません。

 報道によれば、亡くなった男性は糖尿病やアルコール性肝障害のため仕事ができなくなり、昨年12月から生活保護を利用していたものの、福祉事務所は「軽就労は可能との(医師による)診断」を理由に就労指導を行い、今年4月に男性が「働く意思を示した」として男性による生活保護辞退届を理由に保護を打ち切ったということです。

 以上の経緯が事実であるとすれば、本件保護の実施機関である北九州市小倉北福祉事務所による違法・不当な取扱いがあったといわざるをえません。
 

2 生活保護制度は最低生活の最後の拠りどころであり、その停廃止の決定に際しては慎重な上にも慎重な判断が求められます。生活保護法上、保護の停廃止は、(1)「被保護者が保護を必要としなくなったとき」‐すなわち現実に保護の利用者の収入が増加し要保護性が消滅したとき、(2)保護の利用者が実施機関の指導又は指示(または施設の管理規定)に従わないとき、(3)立入調査拒否・検診命令違反のあるときにしか認められていません。

(1)の場合は、単に仕事が見つかったなど収入が得られる見込みが立ったというだけでは要保護性の消滅があったとはいえず、また(2)や(3)の場合のように制裁的な色合いの強い保護の停廃止の場合には、文書による指導指示を行うこと、弁明の機会を付与すること、手続はできる限り抑制的・段階的に行わなければならないこと等が定められています。

 そしてこのように保護の停廃止に際しては厳格な手続が規定されていることから、これを回避するために、今回のように保護の利用者から「保護辞退届」の提出をもとめ、これを理由に保護を打ち切るという運用が全国的に蔓延しています。
 

3 私どもをはじめ生活保護問題に携わる多くの専門家・支援団体は、このような「辞退届」にもとづく安易な保護打ち切りは今回のように深刻な事態を引き起こしかねず、極めて問題であることを従来から繰り返し指摘し、各地で審査請求や訴訟にも取り組んできていたところです。

 そして、昨年9月27日広島高裁は、「辞退届」にもとづいて生活保護が廃止された事案について、「就職予定先の給与体系や控訴人の健康状態と対比した仕事内容等につき資料の提出を促したり事実の調査を行うこともなく、控訴人に自立の目途があるのか、いまだ確たる判断ができかねる状況であったというべきにもかかわらず、控訴人の申述を主たる拠り所に、自立の目途があるものとして本件辞退届の文案を起草し、控訴人に書き写させたと認められ、当該職員の示唆的言動によって、控訴人は、当面の保護給付の実現に気をとられるあまり、保護を辞退する必要はないのに、その義務があるものと誤信して保護辞退の意思表示をしたものと推認するのが相当」として保護辞退の意思表示を無効であるとし、併せて保護受給権を侵害したものとして行政(東広島市)の賠償責任を認める判断をしています。

 また東京都は「保護の受給要件を満たしている被保護者から保護辞退の申し出があったからといって、それをもって直ちに保護を廃止することはできない」とし、少なくとも
「・被保護者が保護の受給要件や廃止事由等を正しく理解しているか
 ・保護受給が継続できることを認識した上で任意かつ真摯に辞退を申し出ているか
 ・ 保護廃止によって被保護者が急迫した状況に陥るおそれがないか」
について調査検討しなければならず、
またそもそも「保護の受給要件を満たしている被保護者に対して実施機関の側から辞退を勧めることは、法で保障された保護受給権の侵害につながり、許されない」との運用指針を示しています(「東京都生活保護運用事例集」問8−46)。

京都市も「ア 被保護者からの任意かつ真しな辞退の申出があること イ 被保護者が急迫した状態にないこと」を確認しない限り辞退届による保護廃止は認められないものとし、辞退届による保護廃止手続にあたっては保護制度についての教示を行うこと、辞退理由、保護廃止後の生計維持方法の聴取及び急迫状態の有無の確認を行う等慎重な運用を行うよう求めています(2005年5月19日付京都市保健福祉局長通知「生活保護廃止時における適正な事務手続について(通知)」)。
 
 
4 北橋北九州市長は今回の事態について「体を大事にしていけば普通に働けると主治医の診断があったことをもとに、本人も自立して頑張ってみようという経過であったと聞いていますので、問題はなかった」とのコメントを発表し、小倉北区役所の常藤秀輝・保護第1課長も男性が亡くなったことは残念としながらも「辞退届は本人が自発的に出したもの。男性は生活保護制度を活用して再出発したモデルケースで、対応に問題はなかった」とコメントしています。
 
しかし、上記のとおり本来であれば慎重かつ厳格な手続を経てしなければならない保護の廃止処分を、不法行為責任すら問われかねない辞退届にもとづいて安易に行ったことは、とうてい「問題はなかった」といえるようなものではありません。このようなケースを「モデルケース」ということは、北九州市の保護行政が、保護利用者の就職を支援し、職を得られるように援助するという福祉事務所の使命である「自立支援」を放棄しているのではないかという疑念を抱かざるを得ません。
 

5 また、いのちの拠り所である生活保護を辞退せざるをえないところにまで追いやる「就労指導」にも、そもそも問題があったのではないかと考えられます。昨年3月厚労省は「生活保護行政を適正に運営するための手引き」という通知を出して保護行政の締め付けをはかり、本年度からは医師が就労困難と診断しているケースについてまでも「より客観的な判定を行う」ためとして稼働能力判定会議なるものを設置・運営するように各地方自治体に求めています。
 
このような流れの中で生活保護の現場ではただ「働け」「働け」と保護利用者の尻を叩くだけの恫喝的な就労指導が横行するようになりました。「ケースワーカーから仕事が決まっても決まらなくても来月までで保護は打ち切りだといわれた」「就職面接では持病は隠しておけといわれた」「識字学級に行っているヒマがあったらなんでハローワークに行かないのかと責められた」といった耳を疑うような相談も私どもはじめ各地の支援団体に寄せられているところです。

 本件においては、医師が「軽就労可能」との診断を下しているとのことですが、そもそもよほどの場合でないと医師は一般的に「就労困難」との診断はしないものであり、本人の病歴等を考えれば「軽就労可能」との医師の診断のみを根拠に就労指導を行ったことにも問題があったのではないかと考えられます。男性の日記には福祉事務所の対応への不満も綴られていたとのことであり、男性への処遇が適切なものであったのかどうかの検証が是が非でも必要です。
 

6 「おにぎりが食べたい」と窮状を日記に残し、野草を食べなければならないところにまで追い詰められた挙げ句孤独死を余儀なくされた男性の無念を思うと言葉も出ません。保護行政のあり方が人をここまで追いやっているのであれば、このような現実は直ちにただされなければなりません。

今回の事態について、安易に「問題なし」として事態の幕引きをはかることは許されません。北九州市は今後決してこのような痛ましい事件が発生する事のないよう、このような事態に至った原因をつぶさに検証し、その責任を明らかにすべきです。

 以 上


 

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